女の子はどう生きるか 教えて、上野先生!
上野千鶴子:著
岩波ジュニア新書
ISBN 978-4-00-500929-9
この本を書いた上野千鶴子(うえのちづこ)さんは、東京大学の名誉教授(めいよきょうじゅ)、フェミニストとしての活動も有名な女性。
フェミニストを辞書で調べてみたら、なんと!我が家の辞書にはのっていなかった。ざんねん。
それでは、ウィキペディアで調べてみよう。
ウィキペディアは、誰でも無料で使えるインターネット上の辞典(じてん)で、世界中の人が書き込んだり、修正(しゅうせい)したりすることで作られているんだよ。
ウィキペディアで「フェミニスト」と調べると、「フェミニズム」という検索結果がヒットしたので見てみよう。
フェミニズム
フェミニズム(英: feminism)とは、女性解放思想、およびこの思想に基づく社会運動の総称であり、政治制度、文化慣習、社会動向などのもとに生じる性別による格差を明るみにし、性差別に影響されず万人が平等な権利を行使できる社会の実現を目的とする思想または運動である。
ウィキペディアより「フェミニズム」序文
ずいぶんむずかしい説明だね。
これをかんたんに説明すると、こんなふうになる。
女性が社会(みんなが生活する町や場所、地域(ちいき)など)で生きていくときに、「女性だから」ソンしたり、男性よりもひどい扱い(あつかい)を受けたり、いやな目にあったりすることがないようにしよう、という考え。
そして、そういう考えを持って、行動する人のことを「フェミニスト」という。
子供の君にはよくわからないかもしれないけれど、君のおじいちゃんやおばあちゃんが若いころには、「女性だから」というだけでひどい扱い(あつかい)を受けていた。
たとえば、結婚して赤ちゃんを産めない(うめない)と「石女(うまずめ・いまは使ってはいけない差別的(さべつてき)な表現(ひょうげん)で、子供を産めない女性へのひどい悪口)」と言ったり、男の子を産まないと「役に立たない」と言われたり。
会社でも重要(じゅうよう)な仕事はさせてもらえなくて、男性社員のお茶をいれたり、そうじをしたり、お世話係みたいなことしかさせてもらえなかった。
お給料だって、同じ年数働いても男性より女性のほうがうんと少なかった。
赤ちゃんができないとか、男の子が生まれないといまだに悪口を言う年寄りはいるけど、そもそも赤ちゃんができるのには男性の精子と女性の卵が必要で、男性の精子に問題があることが多いというのが最近ではわかってきたし、精子の持つ染色体(せんしょくたい)が性別を決めるから、男の子が生まれないのは男性のせいなんだけどね。
どうして女の人がソンをする世の中だったのか、そういう世の中だと誰がトクをするのか、興味(きょうみ)があったらぜひ調べてみてほしい。
「知る」ということは、自分を守る武器(ぶき)になるから、気になることはどんどん調べてみよう。
そして、上野さんのような女性が「女性にも権利を与えなさい(あたえなさい)」と声をあげて、たくさんの人に語りかけたおかげで、いま私たちは「男・女」の差別(さべつ)なく、平等(びょうどう)に勉強できたり、お給料をもらったり、生活ができるようになった。
その上野さんが、「女の子はどう生きるか」という本を書いたのは、どうしてだろう。
私の考えでは、「日本の社会は、まだ女性に差別的だから」だと思う。
もし君が女の子だったら、学校やおうちで、こんなことを言われたことはないかな。
「女の子なんだから、やさしくしなさい」
「女の子なんだから、きれいにしなさい」
じゃあ、男の子はやさしくしなくてもいいの?
男の子はきたなくてもいい?
やさしくすることや、きれいにすることって、男とか女が関係あるのかな?
なんか、へんじゃない?
上野さんたちのおかげで、政治のルールは「男女平等」になった。
だけど、世の中を見ると、「女がやるのが当たり前」と思われていることがたくさんある。
たとえば、結婚して赤ちゃんが生まれたら、赤ちゃんのお世話をするのも、ごはんを作るのも、そうじやせんたくをするのも、お母さん。
じゃあ、お父さんはなにをしてるの?
では、君のうちのお父さんを見てみよう。
いま、なにしてる?
だいたいのお父さんがスマホを見てると思うんだけど、当たりかな?
お父さんがスマホを見ているあいだ、お母さんはなにをしているだろう。
ごはんを作っていたり、お皿を洗っていたり、せんたくした服を干したりしていないかな。
それが、お父さんとお母さんのふたりで話し合って決めたことだったらいいんだけど、たいていのおうちでは「お母さんがやるのが当たり前」という、ナゾの空気によってそうなっているんだよね。
ほんとうにナゾ、と思うんだけど。
そういう、「女だから」という目に見えない圧力(あつりょく)、押しつけをなくすにはどうしたらいいんだろう。
女の子から寄せられたナゾに、上野さんが答えてくれるのがこの本だ。
「女だから」押しつけられる理不尽(りふじん・理にかなわないこと。言ってることがむちゃくちゃなこと。)に、上野さんがバッサバッサと切りまくる。
私みたいなおばさんが読むと、非常に痛快(つうかい)で、読みながら「ふふふ」と笑ってしまう。
そうだそうだ!もっと言ってやれ!みたいな、ね。
学生だとよく言われるのが「女の子なんだから、そんなに勉強しなくても」ってやつだ。
とくに、理系(りけい)へ進学しようと考えている女の子に対して、お父さんが言うことが多いみたい。
「女の子」をなんだと思っているんだろうね。
大人になって社会に出ると、「女の子はちょっとバカなくらいがいい」とか、本当に言う人もいる。
私も言われたことがあるし、そのときは目玉が飛び出るかと思うくらいびっくりした。
この人は、バカなんだなあと思ったけどね。
日本は、どういうわけか、「女だから」「女のくせに」というのがなかなか、なくならない。
それは、「女に押しつける」ことでトクしてきた男たちが、「いまさらそんなめんどくさいことやりたくない」と思うから、というのもある。
だけど、生まれた性別のせいで、できることとできないことがあるのは、おかしいと思わない?
性別のせいで、ソンすることがあるのは、なんかへんじゃない?
だから、考えよう。
上野さんの言葉には、いままで考えなかった「どうして?」を考えるきっかけと、そのヒントが詰まって(つまって)いる。
お父さんやお母さんにも、ぜひ読んでほしい。
ちなみに、私の家で「お父さん」はなにをしているかというと、ごはんを作ったり、お皿を洗ったり、冷蔵庫(れいぞうこ)の中をチェックして買い物に行ったり、している。
私のうちでは、「お父さん」がごはんの係だから。
このことを人に話すと「えー!」と驚かれる(おどろかれる)けど、たぶん君が大人になるころには、当たり前になっているよね。
そういう世の中になっていてほしいなと思う。